水中でも筋肉の電気信号を測れる 水や体液に強い透明導電膜を開発

雨や汗にぬれても使える、透明な電子センサー。

そんな技術につながる新しい素材が開発されました。

理化学研究所などの国際共同研究グループは2026年8月20日、雨水や海水、体液などに触れても安定して電気を通す、透明な導電ナノ膜を開発したと発表しました。

導電膜とは、電気を通す薄い膜のことです。今回開発された膜は光も通すため、皮膚や脳表面の観察を妨げにくく、電極として電気信号を測れます。

研究チームは、人の皮膚に直接形成した膜を使い、水中で筋肉の電気信号を測ることに成功しました。

さらに、マウスの脳表面に透明な電極を取り付け、脳の電気信号と血管の画像を同時に記録できることも示しています。

目次

電気を通すのに、なぜ透明なの?

一般的な電線には、銅などの金属が使われています。

金属は電気をよく通しますが、通常は光を通しません。そのまま電極にすると、電極の下にある皮膚や血管が見えにくくなってしまいます。

そこで利用されるのが「透明導電膜」です。

透明導電膜は、光を通しながら電気も流せる薄い素材です。身近なところでは、スマートフォンのタッチパネルや太陽電池などにも使われています。

皮膚や臓器に取り付ける場合は、透明で電気を通すだけでは十分ではありません。

体の動きに合わせて曲がることや、表面に密着すること、汗や体液に触れても性能が落ちにくいことも求められます。

従来の透明導電膜は水が苦手だった

透明導電膜の材料には、非常に細い金属の線を網目状に並べた「金属ナノワイヤ」や、電気を通す高分子などがあります。

しかし、これらの材料は水やイオンに長時間さらされると、腐食したり膨らんだりして、基板からはがれやすくなります。

水から守るために別の膜で覆う方法もありますが、保護膜を追加すると全体が厚く、硬くなります。

皮膚や脳の表面には細かな凹凸があるため、硬いセンサーでは十分に密着できません。光を通しにくくなることも課題でした。

薄さや柔らかさを保ったまま、どのように水への強さを持たせるのか。

これが今回の研究で重要なポイントです。

2種類の材料を組み合わせて水から守る

研究チームが開発したのは、「二相パーコレーションネットワーク」と呼ばれる構造です。英語名をもとに「BIPIN」と呼ばれています。

少し難しい名前ですが、二つの材料がそれぞれ異なる役割を担う構造として考えると分かりやすくなります。

一つ目は、電気の通り道になる金属ナノワイヤです。

二つ目は、金属ナノワイヤの隙間に入り込み、水やイオンから守る高分子です。

細い金属の線が電気を運び、その隙間に入った高分子が金属のネットワークを支えます。これにより、透明性や導電性を保ちながら、水やイオンの侵入を抑えています。

完成した導電膜の厚さは約200ナノメートルです。1ナノメートルは10億分の1メートルなので、とても薄い膜であることが分かります。

海水などに10時間浸しても性能を維持

研究チームは、BIPINを雨水、海水、体液に近い環境を再現した溶液へ600分間、つまり10時間浸し、電気抵抗の変化を調べました。

電気抵抗は、電気の流れにくさを表す数値です。抵抗が大きく増えるほど、導電膜としての性能が低下したことになります。

BIPINの電気抵抗の増加は、平均で約16%にとどまりました。

一方、比較に使われた銀ナノワイヤ膜や導電性高分子では、抵抗が200%以上増加しました。

BIPINは、水をはじきやすい性質を持つことも確認されています。

さらに、導電性を保ちながら、可視光の90%以上を通しました。電極が光を遮りにくいため、その下にある皮膚や血管も観察できます。

水中で筋肉の電気信号と血管を同時に確認

研究チームは、人の手首にBIPINを直接形成し、筋電図を測定しました。

筋電図とは、筋肉を動かしたときに発生する微弱な電気信号を記録したものです。スポーツ科学やリハビリテーション、義手の制御などに使われています。

実験では、水中で手首の角度を変えたり、水流を当てたりしても、筋肉の電気信号を記録できました。

同時に、近赤外線を使って皮膚の下の血管を観察することにも成功しています。

従来の透明電極やゲル電極では、皮膚との間にできる隙間や電極に含まれる水分によって、光が散乱したり吸収されたりします。そのため、血管の画像が乱れることが課題でした。

BIPINは薄く透明で、皮膚に密着するため、電気信号の測定と血管の観察を同じ場所で行えました。

マウスの脳でも電気信号と血管を同時に観察

研究チームは、BIPINを使った9チャンネルの透明電極をマウスの脳表面にも取り付けました。

脳表面の電極では、大脳皮質で生じる電気信号を記録できます。しかし、金属製の電極は光を通しにくいため、電極の下にある血管や脳組織の観察を妨げてしまいます。

今回の透明電極では、脳の電気信号を測りながら、近赤外光を使う「2光子励起顕微鏡」で電極の下にある血管を観察できました。

2光子励起顕微鏡は、生きた組織の内部を詳しく観察するために使われる顕微鏡です。

電気信号と血管の様子を同じ場所で同時に調べられれば、脳の活動をより詳しく理解する手掛かりになると考えられます。

実用化には長期間の安全性確認が必要

今回の研究成果は、水泳などの水中スポーツにおける筋肉の測定や、雨や汗に強いウェアラブルセンサーへの応用が期待されています。

リハビリ中の動作を確認するセンサーや、脳の研究に使う透明電極にも役立つかもしれません。

ただし、今回開発された導電膜を使った医療機器が、すぐに製品化されるわけではありません。

人で行われたのは皮膚上での測定であり、脳表面の実験にはマウスが使われています。

脳表面へ長期間取り付けた場合の安定性や安全性については、今後さらに検証する必要があります。

薄さと透明性を保ったまま水に強く

今回開発されたBIPINの特徴は、厚い保護膜を追加せず、薄さや透明性を保ちながら水への耐久性を高めたことです。

人の皮膚を使った実験では、水中で筋肉の電気信号と血管の画像を取得できました。マウスの脳では、脳の電気活動と血管を同時に観察しています。

雨や汗にさらされるウェアラブル機器や、水中で使える生体センサーに加え、電気と光の両方から脳を調べる研究への応用も期待されます。

実用化には長期間の安定性や安全性の確認が必要ですが、体の状態をさまざまな方法で測る新しいセンサーの基盤技術となる可能性があります。

情報源・参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次