光を当てるときれいに剥がれる接着剤 のり残りを抑え再利用へ

強力な接着剤は、製品を丈夫に作るうえで役立ちます。ところが、修理やリサイクルの際には、その強さが部品を分けにくくする原因にもなります。

大阪大学、三重大学、山形大学、大阪工業大学の研究チームは2026年9月4日、紫外線を当てた場所だけを剥がしやすくする光応答接着材料を開発したと発表しました。

接着剤全体を壊すのではなく、部品と接着剤が触れている境界付近の性質を変えることが特徴です。実験では、剥離後に少なくとも目で確認できる接着剤の残りは見られず、別の波長の紫外線と加熱による再接着も確認されました。

研究成果は同日、学術誌『Matter & Light』で公開されています。

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強く貼れることが再利用の壁になる

接着剤は、ねじやボルトを使わずに異なる材料を固定できます。スマートフォンなどの電子機器、自動車、半導体部品を小型化・軽量化するうえでも重要な材料です。

一方、一度貼り合わせると簡単には分解できません。無理に剥がせば、部品が変形したり、表面に接着剤が残ったりすることがあります。複数の素材が接着したままでは、それぞれを分けて再利用することも難しくなります。

そこで研究されているのが、熱や光などの刺激を受けたときだけ剥がしやすくなる接着剤です。使用中は十分な接着力を保ち、必要になったときだけ分解できれば、修理や部品交換、材料の回収がしやすくなります。

従来は接着剤全体を弱くする方式が中心

従来の刺激応答接着材料には、光などによって接着剤全体を柔らかくしたり、化学構造を変えたりするものがあります。

しかし、接着剤の内部まで弱くなると、剥がす途中で材料がちぎれ、接着面に一部が残ることがあります。光によって元に戻らない反応を起こす方式では、きれいに分けられても、同じ接着剤を再利用しにくい場合があります。

今回の研究では、接着剤全体ではなく、接着剤と部品が触れる「接着界面」の近くに変化を集中させました。研究チームは、この設計を「界面スイッチング」と呼んでいます。

分子同士の結びつきを光で切り替える

新しい接着材料には、スチルベンと、β-シクロデキストリンの誘導体が使われています。

シクロデキストリンは、分子を内側に取り込める空洞を持つ環状の分子です。空洞を持つ側を「ホスト」、そこへ入り込む分子を「ゲスト」に見立て、この結びつきを「ホスト―ゲスト相互作用」と呼びます。今回の材料では、スチルベンがゲストの役割を担います。

この結びつきは、共有結合のように強く固定されたものではなく、条件によって結びついたり離れたりします。そのため、接着材料の分子同士をつなぐ架橋として使いながら、光で状態を切り替えられます。

光によって分子の形や性質を変える仕組みは「光スイッチ」とも呼ばれます。光スイッチの基本は、「分子アンテナ」で光スイッチを高感度化した研究の記事でも紹介しています。

365nmの紫外線で接着面だけを剥がしやすくする

研究チームが365nmの紫外線A波(UV-A)を当てると、スチルベンの形が変化し、照射面付近でホスト―ゲスト相互作用が弱まりました。nm(ナノメートル)は光の波長を表す単位です。

その結果、光が当たった接着面付近の硬さや接着性が変わり、そこだけを選んで剥がしやすくなります。最も条件を整えた材料では、剥離に必要な力が照射前より約45%低下しました。

重要なのは、接着剤全体を分解したわけではないことです。内部の材料を保ちながら、部品との境界付近だけを切り替えるため、接着剤が途中でちぎれて残るのを抑えられます。実験では、剥離した面に目で確認できる接着剤の残りは見られませんでした。

ただし、あらゆる材料や使用条件で、完全に残留物がなくなることを示した結果ではありません。今回確認された実験条件での成果として捉える必要があります。

254nmの紫外線と加熱で再接着

剥がした後には、別の波長である254nmの紫外線C波(UV-C)を当てます。すると、スチルベンとシクロデキストリンの結びつきが回復し、接着性を戻せる状態になります。

その後、材料を加熱して貼り直すことで、溶剤を使わずに再接着できました。つまり、254nmの紫外線だけで自動的に貼り付くのではありません。分子間の結びつきを戻す光の操作と、実際に貼り直すための加熱は別の工程です。

研究チームは、光によって剥がしやすさを切り替える反応が、15回の剥離サイクル後にも保たれることを確認しました。これは同じ仕組みを繰り返し利用できる可能性を示しますが、製品として長期間使える耐久性が確認されたという意味ではありません。

PETと4種類の材料で切り替えを確認

実験では、PETフィルムとガラス、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ナイロン66、アルミニウムをそれぞれ組み合わせ、光による接着性の切り替えを確認しました。

CFRPは、炭素繊維でプラスチックを補強した、軽くて強い複合材料です。自動車や航空機などにも使われています。

透明な材料だけでなく、金属や複合材料との組み合わせでも変化を確認したことは、応用先を考えるうえで重要です。ただし、検証されたのはPETフィルムを一方の材料とした組み合わせです。どのような部品同士でも同じ性能が得られるわけではありません。

修理やリサイクルを助ける可能性

電子機器や自動車には、金属、ガラス、プラスチックなど多くの材料が使われています。接着した部品を壊さずに分けられれば、故障した部分だけを交換したり、素材ごとに回収したりしやすくなります。

また、基板だけでなく接着材料も回収して使い直せれば、廃棄物や新しい材料の使用量を減らすことにつながる可能性があります。研究チームは、電子機器、自動車、半導体部品などの分解・修理・リサイクルへの応用を期待しています。

まだ製品化された接着剤ではない

今回開発されたのは試作段階の材料です。実際の製品へ使うには、接着力、耐熱性、湿度への強さ、長期間の耐久性、量産方法などを調べる必要があります。

また、この方式では紫外線を接着面近くまで届けなければなりません。今回の実験構成から考えると、光を通しにくい部品や複雑な構造の内部で、狙った場所へどう照射するかは実用化上の検討点になると考えられます。これは研究チームが実証した性能ではなく、実験条件から考えられる課題です。

254nmのUV-Cを使うため、人体への照射を避ける安全設計や、周辺材料への影響の確認も欠かせません。15回より多い繰り返しや、実際の使用環境で同じ性能を保てるかも今後の検証が必要です。

接着面だけを切り替える新しい考え方

今回の成果では、365nmの紫外線で接着面付近を剥がしやすくし、254nmの紫外線で分子間の結びつきを戻した後、加熱して再接着できることが示されました。

接着剤全体を壊すのではなく、部品との境界だけを切り替える点が、従来方式との大きな違いです。

現時点では試作材料ですが、「使用中はしっかり貼り、必要なときだけ剥がす」という接着剤が実用化されれば、製品を壊さずに修理・分解するための新しい選択肢になります。接着の強さだけでなく、剥がし方まで設計する研究として、今後の進展が注目されます。

情報源・参考資料

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