火星の岩石に「3段階の水の履歴」 NASA探査車がジェゼロ・クレーターで発見

かつて火星に水があったことは、いまではかなり確かなものと考えられています。

火星の表面には川が流れたような地形が残り、NASAの火星探査車「Perseverance(パーサヴィアランス)」が探査するジェゼロ・クレーターにも、かつて湖が存在していました。

しかし今回分かったのは、単に「湖があった」ということではありません。

ジェゼロ・クレーター内の「Margin Unit」と呼ばれる地域の岩石には、少なくとも3段階にわたる異なる水と岩石の反応が記録されていました。

CO₂に富む水、湖水または性質の変化した地下水、そして後期の熱水。

同じ地質領域が、長い歴史の中で異なる水環境の影響を繰り返し受けていたことになります。

研究成果は2026年9月21日、科学誌『Communications Earth & Environment』に掲載されました。

目次

舞台は、かつて湖があったジェゼロ・クレーター

ジェゼロ・クレーターは直径約45km。

Perseveranceは2021年にここへ着陸し、岩石や地形を調べながら、過去の火星が生命の存在に適した環境だったのかを探っています。

今回調べられたMargin Unitは、古代の湖岸に沿うように広がる地域です。

火星を周回する探査機からは炭酸塩の強いシグナルが観測されていたため、研究者たちは当初、湖の中で砂や泥が積もってできた堆積岩が多いと予想していました。

ところが実際にPerseveranceが調べると、Margin Unitの基盤には、ゆっくり冷えたカンラン石に富む火成岩を起源とする岩石が広く存在することが分かりました。

ただし、すべてがそのままの火成岩というわけではありません。東側では堆積作用によって再加工された痕跡があり、北側下部ではデブリフローによる堆積物も確認されています。

185か所以上の岩石をSuperCamで分析

研究チームはPerseveranceに搭載された「SuperCam」を使い、Margin Unitの185か所を超える岩盤ターゲットを調べました。

SuperCamは一つの測定方法だけを使う装置ではありません。

レーザーを岩石に当てて発生したプラズマの光を調べる「LIBS」から元素組成を調べるほか、ラマン分光や可視・近赤外分光などを使って鉱物の特徴も分析できます。

調査すると、標高の高い場所には、水の影響をほとんど受けていない粗い結晶のカンラン石に富む岩石が残っていました。

一方、かつての湖面より低い場所では、カンラン石が変化し、炭酸塩やシリカなどが形成されていました。

この違いから、もともとの岩石がその後の水によってどのように変化したのかを追うことができます。

岩石に残っていた「3段階」を整理すると

今回の研究のポイントは、「水があった証拠」が一種類ではなかったことです。

段階考えられる水環境岩石に残った主な証拠
1CO₂に富む水炭酸塩を多く含む割れ目・尾根
2ジェゼロ湖の水、または性質の変化した地下水炭酸塩の再移動とシリカの沈殿
3後期の熱水硫酸カルシウムや蛍石を含む鉱物脈

重要なのは、研究チームがこの順序を推定できた一方、それぞれが何年前に起きたかまでは分かっていないことです。

1段階目 CO₂に富む水が岩石を変えた

最初の段階では、CO₂を多く含む水がカンラン石に富む岩石と反応し、岩盤の割れ目に炭酸塩が形成されました。

NASAは一般向け発表で、この水をCO₂に富む地下水と説明しています。

一方、原論文ではより慎重に、中性~アルカリ性のCO₂に富む流体による変質として扱われています。

現在では周囲の比較的柔らかい岩石が削られ、炭酸塩に富む部分が尾根状に残っています。

2段階目 湖の水だった可能性

次の段階では、炭酸塩が再び移動し、その結果できたすき間などにシリカが沈殿したと考えられています。

興味深いのは、かつて想定される湖面より低い場所ほど、この変化が目立つことです。

そのため研究チームは、ジェゼロ湖の水に岩石がさらされた可能性を考えています。

ただし、湖水だったと確定したわけではありません。

長期間にわたる水と岩石の反応によって地下水の性質が変わり、それがシリカの沈殿を引き起こした可能性も残っています。原論文も「湖水または変化した地下水」という複数の可能性を示しています。

3段階目 最後には熱水が流れた

さらに後になると、新しくできた岩盤の割れ目を別の水が通りました。

Margin Unit東部では、厚さ約25cmの鉱物脈が見つかっています。

そこには硫酸カルシウムに加え、フッ化カルシウムを主成分とする蛍石(fluorite)が含まれていました。

地球では、大きな蛍石の鉱脈は、火山岩の中を温められた水が循環する環境と関係することがあります。

そのため研究チームは、この最後の段階では熱水性の流体が岩石の割れ目を通ったと考えています。

ただし、蛍石そのものは必ずしも高温でしか作られないわけではありません。

今回の判断は蛍石だけではなく、鉱物脈の規模や周囲の地質を合わせて考えた結果です。

「火星に水が3回来た」という意味ではない

ここは今回の研究で誤解しやすいところです。

「3段階」と聞くと、

火星に水が現れる → 消える → また現れる

という出来事が3回あったようにも思えます。

しかし研究が示したのは、Margin Unitの岩石に少なくとも3種類の水–岩石反応が、異なる順序で記録されているということです。

それぞれの間にどれくらいの時間があったのかは分かっていません。

したがって、

火星に水が3回来た

ではなく、

ジェゼロ・クレーターの同じ地質領域が、少なくとも3段階の異なる水環境の影響を受けた

と理解する方が正確です。

なぜ炭酸塩とシリカが注目されるの?

今回見つかった炭酸塩やシリカは、火星の水の歴史だけでなく、生命探査でも注目される鉱物です。

地球では、カンラン石と水が反応する過程で水素が生じる場合があります。

水素は一部の微生物が利用できるエネルギー源です。

さらに炭酸塩やシリカは、環境によっては過去の微生物活動に由来する痕跡を保存できる可能性があります。NASAも、これらを古代生命の痕跡を探るうえで重要な鉱物として説明しています。

ただし、

炭酸塩やシリカがある=火星に生命がいた

という意味ではありません。

今回確認されたのは、生命が存在できた環境を考える材料となる複雑な水–岩石反応の歴史です。

生命そのものの証拠が発見されたわけではありません。

今回分かったこと、まだ分からないこと

今回の研究によって、Margin Unitでは火成岩形成後に複数回の水による変質が起き、後期には熱水活動まであったという順序がかなり具体的になりました。

一方で、まだ分からないこともあります。

それぞれの水活動が何年前だったのか、どのくらい続いたのか、2段階目が実際にジェゼロ湖の水によるものだったのか、そして当時その環境に生命が存在したのかは、今回の研究だけでは決められません。

この「分かったこと」と「まだ分からないこと」を分けると、今回の成果は「火星に水があったことを新発見した研究」ではないことが分かります。

すでに知られていた火星の水の歴史を、同じ岩石に残る複数の変質過程から、さらに細かく読み解いた研究なのです。

火星は「一度だけ水があった惑星」ではなかった

火星については、「昔は水が豊富で、その後乾燥した」という単純なイメージを持ちやすいかもしれません。

しかしMargin Unitの岩石が示しているのは、もっと複雑な歴史です。

岩石ができたあとCO₂に富む水が作用し、その後には湖または別の地下水が関わり、さらに後期には熱水が割れ目を流れました。

NASAはMargin Unitを、異なる水環境が交差した場所として表現しています。

これから重要になるのは、

「火星に水があったのか」ではなく、「どのような水環境が、どの順序で存在し、それぞれがどれほど生命に適していたのか」

という問いです。

Perseveranceが一つひとつの岩石に残された化学情報を読み解くことで、古代火星の姿は「水があった惑星」から、環境が何度も変化した惑星へと、より具体的に描かれつつあります。

情報源・参考資料

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次