2020年、小惑星探査機「はやぶさ2」が地球へ持ち帰った小惑星リュウグウの試料。
わずかな量の砂や石から、太陽系が生まれたばかりのころの歴史が少しずつ明らかになっています。
北海道大学や海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの研究チームは2026年9月11日、リュウグウのもとになった天体が、45.65億年以上前に誕生していたことを明らかにしたと発表しました。
これは、太陽系の形成が始まってから約200万年以内にあたります。
ただし、「現在のリュウグウが45.65億年前からそのまま存在している」という意味ではありません。
今回分かったのは、現在のリュウグウを作る材料が生まれた「母天体」の形成時期です。
研究成果は科学誌『Science』に掲載されました。
そもそも「リュウグウの母天体」って何?
現在のリュウグウは、直径約1kmほどの小惑星です。
しかし、太陽系が誕生したころから今の形のリュウグウが存在していたわけではないと考えられています。
リュウグウを構成する物質は、もともともっと大きな別の天体の中にありました。
この「もとになった天体」が、母天体です。
研究チームによると、リュウグウの母天体は太陽系の非常に早い時期に形成されました。
その後、母天体は破砕され、破片が再び集まることで、現在のリュウグウができたと考えられています。
つまり、
母天体が誕生
→ 母天体の内部で物質が変化
→ 母天体が破砕
→ 破片が再び集まる
→ 現在のリュウグウができる
という長い歴史があったわけです。
今回明らかになった45.65億年以上という年代は、この最初の「母天体ができた時期」に関係しています。
リュウグウは太陽系初期の物質を残している
リュウグウは、「炭素質小惑星」と呼ばれるタイプの小惑星です。
水を含む鉱物や有機物に富み、太陽系ができたころの物質を比較的よく残していると考えられています。
そのため、はやぶさ2が持ち帰った試料は、
「水や有機物に富む天体が、太陽系初期にどのように生まれ、変化していったのか」
を考えるための貴重な手掛かりです。
これまでの研究から、リュウグウの主要な構成物質の一部は、母天体内部で氷が溶けてできた水と岩石が反応することで作られたことが分かっていました。
このように、水によって鉱物が変化する現象を「水質変成」と呼びます。
これまでの研究から、水と岩石が反応する水質変成が母天体内部で起きたことや、その時期について研究が進められていました。
一方で、その情報から母天体そのものがいつ形成されたのかを詳しく明らかにすることは課題として残っていました。
小さな「炭酸塩鉱物」から年代を調べる
今回、研究チームが注目したのが、リュウグウ試料の中に含まれる炭酸塩鉱物です。
炭酸塩鉱物は、母天体内部で水と岩石が反応した際に形成された鉱物の一つです。
研究チームは北海道大学の「同位体顕微鏡」を使い、鉱物のごく小さな領域に含まれる元素や同位体を詳しく測定しました。
同位体顕微鏡は、試料へイオンビームを当て、そこから飛び出したイオンを分析する装置です。
非常に小さな鉱物でも、その中に含まれる同位体の割合を精密に調べられます。
今回の論文では、「マンガン・クロム年代測定」と「酸素同位体温度計」という方法が使われました。
同位体の情報から、炭酸塩鉱物がいつ、どのような温度で形成されたのかを推定します。
さらに研究チームは、その結果を母天体内部の温度変化を再現した数値シミュレーションと比較しました。
鉱物ができた年代だけを見るのではなく、
「その温度になるには、母天体がいつできている必要があるのか」
まで逆算したのです。
母天体は太陽系誕生から約200万年以内にできた
分析の結果、リュウグウの母天体は現在から45.65億年以上前に形成されたと考えられることが分かりました。
これは、太陽系の形成が始まってから約200万年以内です。
46億年という時間の長さを考えると、200万年も非常に長く感じます。
しかし、太陽系の歴史全体から見るとごく短い期間です。
太陽系が生まれ始めて間もないころには、すでにリュウグウの材料を含む天体が存在していたことになります。
ここが今回の研究の重要なポイントです。
炭素質の天体にも「世代」があった?
太陽系初期に作られた小さな天体は「微惑星」と呼ばれます。
微惑星どうしが衝突したり合体したりすることで、やがて惑星へ成長していったと考えられています。
今回の研究によると、リュウグウの母天体は、これまで知られている多くの炭素質天体よりも早い時期に形成されていました。
論文では、リュウグウとよく似た特徴を持つ「イヴナ型炭素質隕石」の母天体についても調べています。
リュウグウやイヴナ型隕石には、他の多くの炭素質隕石で見られる「コンドリュール」がほとんど見られません。
コンドリュールとは、一度溶けた物質が冷えて固まった、ミリメートルほどの球状の粒です。
今回の年代測定では、リュウグウやイヴナ型隕石の母天体は、他の多くの炭素質隕石に含まれるコンドリュールや、その母天体が形成されるより前に存在していたと考えられています。
つまり太陽系初期には、すべての炭素質小天体が一度に作られたのではなく、異なる時期に複数の世代が誕生していた可能性が出てきたのです。
ただし今回の研究は、「現在のリュウグウが45.65億年前からそのまま残っている」ことや、「リュウグウが太陽系で最初にできた小惑星だ」と証明したものではありません。
分かったのは、リュウグウの材料を作った母天体が、太陽系形成の非常に早い段階に存在していたということです。
現在のリュウグウは、その古い母天体の材料を受け継いだ天体と考えられています。
なぜ地球に持ち帰った試料が重要なの?
小惑星の年代や成分は、地上からの観測だけでもある程度調べることができます。
しかし今回のように、鉱物中の微小な領域にある同位体まで詳しく測るには、実際の試料が大きな力を発揮します。
はやぶさ2はリュウグウへ着陸し、試料を採取して地球へ持ち帰りました。
そのため研究者は、地球上の高精度な分析装置を使って、リュウグウの物質を直接調べることができます。
探査機による「サンプルリターン」の価値は、持ち帰った直後だけで終わりません。
分析技術が進歩すれば、同じ試料から将来さらに新しい情報を読み取れる可能性があります。
今回の研究も、持ち帰った小さな粒子から太陽系の最初の数百万年間を読み解いた成果の一つです。
次は小惑星ベヌーとの比較へ
今回の研究で、リュウグウの母天体が非常に早い時期に形成されたことが分かりました。
しかし、なぜこのような初期世代の天体が生まれ、ほかの炭素質天体とは異なる歴史をたどったのかについては、まだ調べるべきことがあります。
研究チームが今後重要だとしているのが、小惑星ベヌーとの比較です。
ベヌーはNASAの探査機「OSIRIS-REx」が試料を地球へ持ち帰った炭素質小惑星で、リュウグウと化学的に似た特徴を持っています。
ベヌーの母天体がいつ形成されたのかを調べ、リュウグウと比較すれば、水や有機物に富む天体が太陽系初期にどのように誕生し、変化していったのかをさらに詳しく理解できる可能性があります。
小さな砂粒から太陽系46億年の歴史を読む
リュウグウから持ち帰られた試料は、一つひとつは非常に小さなものです。
しかし、その鉱物に残された同位体を調べることで、研究者は45億年以上前の出来事までさかのぼることができます。
今回の研究では、リュウグウの母天体が太陽系形成開始から約200万年以内という非常に早い時期に誕生していたことが示されました。
太陽系は、最初から現在の惑星や小惑星がそろっていたわけではありません。
小さな天体が生まれ、壊れ、また集まりながら、長い時間をかけて現在の姿へ変化してきました。
はやぶさ2が持ち帰った砂粒は、その46億年近い歴史を読み解く「記録」の一部なのです。
