屋根の上に並んだ太陽光パネルと聞くと、黒くて硬い大きな板を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
ところが今、薄く、軽く、曲げられるタイプも作れる太陽電池の開発が進んでいます。
その一つが、「ペロブスカイト太陽電池」です。
従来の太陽電池では設置が難しかった建物の壁や、重いパネルを載せにくい屋根などにも使える可能性があり、次世代の太陽電池として注目されています。
日本でも研究だけでなく、量産技術の開発や実際の建物・インフラを使った実証が進み始めています。2026年8月にはNEDOが、ペロブスカイト太陽電池の量産技術開発とフィールド実証を行う新たな事業を採択しました。
では、普通の太陽電池と何が違うのでしょうか。
ペロブスカイト太陽電池って何?
まず、「ペロブスカイト」という少し変わった名前から見てみましょう。
ペロブスカイトは、特定の商品名ではありません。
もともとは、ある特徴的な結晶構造の名前です。
ペロブスカイト太陽電池では、この構造を持つ半導体材料を使って光を吸収し、電気を作ります。
太陽の光がペロブスカイト層に当たると、そのエネルギーによって電気を運ぶための「電子」と「正孔」が生まれます。
それぞれを別の層へ取り出して外部の回路へ流すことで、電気として利用できます。
つまり、
太陽の光
↓
ペロブスカイト材料が光を吸収
↓
電気を運ぶ粒子が生まれる
↓
外部へ取り出して発電
という仕組みです。
普通の太陽光パネルとは何が違う?
現在広く使われている太陽電池の多くは、結晶シリコン太陽電池です。
住宅の屋根や大規模な太陽光発電所で見かける黒いパネルの多くが、このタイプです。
シリコン太陽電池はすでに広く普及しており、高い性能や耐久性を持っています。
一方で、一般的なパネルはガラスなども使うため、ある程度の重さがあります。また、基本的には硬い板状なので、大きく曲げて使うことはできません。
ペロブスカイト太陽電池では、材料を薄い膜として作ることができます。
さらに、材料を溶液にして塗布や印刷のような方法で膜を作ることも可能です。
そのため、軽量なフィルム上に作ることで、柔軟性のある太陽電池にできます。
ただし、すべてのペロブスカイト太陽電池が曲がるわけではありません。
ガラス基板上に作るタイプもあり、現在特に注目されているのが、軽くて柔軟なフィルム型です。

シリコン太陽電池との違いを、重さ・効率・耐久性・用途まで含めて詳しく比較した記事はこちらです。
「薄くて軽い」と何がうれしい?
ここが、ペロブスカイト太陽電池が期待されている大きな理由です。
太陽光発電を増やそうとしても、太陽光パネルを置ける場所には限りがあります。
特に日本では、平らで広い土地を大量に確保するのが簡単ではありません。
建物の屋根にも設置できますが、古い工場や体育館、倉庫などでは、屋根が重い太陽光パネルを支えられない場合があります。
建物の壁面も、従来型の太陽光パネルでは設置条件が限られます。
そこで軽量なフィルム型太陽電池が実用化できれば、
- 工場や倉庫の屋根
- 体育館など耐荷重の小さい屋根
- 建物の壁面
- 曲面を持つ構造物
など、これまで太陽電池を取り付けにくかった場所まで発電に使える可能性があります。
NEDOは2026年3月、ペロブスカイト太陽電池などのフレキシブル太陽電池について、建物の屋根や壁面へ安全に導入するための設計・施工ガイドラインも公開しています。
つまりペロブスカイト太陽電池の強みは、
「今ある太陽光パネルを全部置き換える」ことだけではありません。
これまで太陽電池を置きにくかった場所を、新しい発電場所として使える可能性があることなのです。
曲げられるなら、どこにでも貼れる?
「薄くて曲げられる」と聞くと、
壁や窓、自動車など、どこにでも貼れば発電できるのでは?
と思うかもしれません。
ただし、そこまで単純ではありません。
太陽電池は屋外で長期間使う設備です。
そのため、
- 雨
- 湿気
- 高温・低温
- 紫外線
- 強風
- 積雪
- 建物の振動
などにも耐える必要があります。
さらに、発電した電気を安全に取り出すための配線や電気設備、落下を防ぐ固定方法なども必要です。
そのため、研究室で発電できることと、実際の建物で長期間安全に使えることは別の問題です。
設計・施工ガイドラインの整備も、社会で本格的に使うために必要な準備の一つといえます。
発電性能は低くないの?
軽くて曲がる代わりに、
「普通の太陽電池より、あまり発電しないのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、ペロブスカイト太陽電池は研究が始まってから比較的短い期間で性能が大きく向上しました。
産総研によると、研究用の小面積セルでは、シリコン太陽電池と比べても遜色ない変換効率が実現されています。
ここでいう「変換効率」とは、太陽から受け取った光のエネルギーのうち、どの程度を電気へ変えられるかを示す値です。
ただし注意したいのは、
小さな研究用セルで高い性能が出ることと、大きな製品を大量生産して同じ性能を安定して出せることは別
という点です。
面積を大きくしても性能を維持できるか。
大量に作っても品質をそろえられるか。
長期間屋外で使っても性能が低下しないか。
こうした条件をクリアして初めて、本格的な普及につながります。
それなら、なぜまだ普及していないの?
ペロブスカイト太陽電池には大きな可能性があります。
それでも、2026年時点でシリコン太陽電池のようにどこでも見かける状態にはなっていません。
大きな課題の一つが、耐久性です。
太陽電池は一度設置すれば、長期間にわたって屋外で使う設備です。
高い発電効率だけでなく、その性能を長く維持する必要があります。
さらに、
- 大面積化
- 量産プロセス
- モジュール化
- 品質の安定
- 施工方法
- コスト
なども重要です。
研究室で高性能なセルを一枚作れるだけでは、発電設備として広く普及させることはできません。
品質を安定させながら大量に作り、実際の環境で長く使える製品にする必要があります。
まさに現在は、この部分の開発が進められています。
2026年、日本では「量産と実証」の段階へ
日本では現在、ペロブスカイト太陽電池を研究室から実際の社会へ移す取り組みが進んでいます。
NEDOでは、単接合型ペロブスカイト太陽電池について量産技術の開発と社会実装に向けた実証事業を進めています。
さらに2026年8月6日には、新たに1件の研究テーマを採択しました。
この事業では、公共施設やインフラ空間などで実際に使用しながら性能を確かめるとともに、品質を安定させて大量生産できる技術の確立を目指します。
つまり2026年現在は、
「ペロブスカイト太陽電池が発電できるかどうかを調べている段階」
ではありません。
発電できること自体はすでに分かっています。
現在の大きなテーマは、
「どうすれば安定した製品として大量に作り、実際の社会で長期間使えるのか」
というところへ移っています。
日本がペロブスカイト太陽電池に力を入れる理由
日本がこの技術に注目している理由は、設置場所を増やせる可能性だけではありません。
ペロブスカイト太陽電池の主要な原料の一つが、ヨウ素です。
日本はヨウ素の生産量が世界第2位で、世界シェアの約3割を占めています。
そのため、国内で重要な原材料を確保しやすいことも、日本がこの技術に力を入れる理由の一つです。
ただし、ペロブスカイト太陽電池は「ヨウ素だけでできている」わけではありません。
実際には有機物や金属、ハロゲンなど複数の材料から構成されています。
さらに日本では、太陽光発電を増やすうえで「どこに設置するか」が大きな課題になっています。
土地に大量のパネルを並べるだけではなく、すでにある建物や設備を活用して発電量を増やす方法が求められています。
政府の「次世代型太陽電池戦略」では、2030年までのできるだけ早い時期にGW級の生産体制を構築し、2040年までの国内累積導入量として約20GWを目指す方針が示されています。
もちろん、これは将来の目標であり、すでに20GW導入されているという意味ではありません。
さらに効率を上げる「タンデム型」も
ペロブスカイト太陽電池には、さらに発電効率を高める研究もあります。
それが「タンデム型太陽電池」です。
太陽の光には、さまざまな波長が含まれています。
一種類の太陽電池だけでは、そのすべてを効率よく電気へ変えることはできません。
そこで、性質の違う太陽電池を重ねます。
たとえば、
ペロブスカイト太陽電池
+
シリコン太陽電池
のように組み合わせ、それぞれが得意な光を利用することで、より高い変換効率を目指します。
NEDOは2026年2月、タンデム型太陽電池について大型モジュールの製造技術や量産技術を開発する新事業を開始しました。
この事業では、2030年度までに500MW以上の量産化構想を持つ企業を対象に、量産技術の確立を目指しています。
ただし、タンデム型もまだ一般家庭へ広く普及している段階ではありません。
太陽電池を「置ける場所」を増やす技術
ペロブスカイト太陽電池というと、
「シリコン太陽電池を超える新しい太陽電池」
という部分が注目されがちです。
しかし、この技術の面白さは単純な性能競争だけではありません。
薄くて軽いフィルム型太陽電池を実用化できれば、
これまで発電に使いにくかった場所まで、太陽光発電の場所に変えられる可能性があります。
屋根に十分な強度がない工場。
建物の壁。
曲面を持つ設備。
そうした場所にも太陽電池を設置できるようになれば、太陽光発電の使い方そのものが広がります。
一方で、耐久性や量産技術、施工方法、コストなど、実際に広く普及させるために解決すべき課題も残っています。
2026年現在、日本では研究室での性能競争だけでなく、量産技術の開発、実際の環境での実証、設計・施工方法の整備まで進んでいます。
ペロブスカイト太陽電池が本当に私たちの身近な場所へ広がっていくのか。
これから注目したいのは最高効率の数字だけではなく、実際の街の中で、どこまで安全に、長く、安く使えるようになるかなのです。
情報源・参考資料
- NEDO「ペロブスカイト太陽電池をはじめとする『フレキシブル太陽電池を利用した太陽光発電システムの設計・施工ガイドライン』を公開しました」(2026年3月18日)
- NEDO「グリーンイノベーション基金事業『次世代型太陽電池の開発/次世代型単接合太陽電池実証事業』で1件を新規採択しました」(2026年8月6日)
- NEDO「次世代型タンデム太陽電池量産技術実証事業」(2026年)
- 経済産業省・資源エネルギー庁「次世代型太陽電池戦略」
- 経済産業省・資源エネルギー庁「エネルギー白書2025」
- 産業技術総合研究所「ペロブスカイト太陽電池とは?」
- 産業技術総合研究所 再生可能エネルギー研究センター「ペロブスカイト太陽電池研究チーム」
ペロブスカイト太陽電池をもっと詳しく知りたい方へ
ペロブスカイト太陽電池の仕組みだけでなく、材料技術や日本企業の取り組み、実用化までの流れをさらに詳しく知りたい方には、こちらの書籍も参考になります。
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