約30年前に北海道で見つかった恐竜化石が、ヨロイ竜類の新属新種だと分かりました。
ヨロイ竜類の新属新種が日本で命名されるのは、今回が初めてです。
北海道大学などの研究チームは2026年9月2日、北海道夕張市で発見された約1億年前の化石を再調査し、「ニッポノペルタ・エゾエンシス」と命名したと発表しました。
新しい化石が発掘されたわけではありません。
1995年に見つかり、岩石の中に埋もれて詳しく調べられなかった化石を、CTスキャンで見直したことで、これまで確認できなかった骨の特徴が明らかになったのです。
研究成果をまとめた論文は、8月21日に学術誌『Cretaceous Research』でオンライン公開されています。
1995年に見つかった頭骨を再調査
今回調べられた化石は、1995年に北海道夕張市の川で発見されました。
見つかった地層は、白亜紀後期のセノマニアン期と呼ばれる時代にできたもので、化石の年代は約1億年前です。
化石には頭骨の一部などが残っていました。
2005年の研究では、歯や後頭部の形から「ノドサウルス類」と呼ばれる恐竜の仲間だと報告されました。
しかし、骨の多くが「コンクリーション」と呼ばれる硬い岩石の塊に埋まっていました。
無理に岩石を削ると、内部の骨まで壊してしまうおそれがあります。そのため、どの恐竜に近いのか、新しい種類といえるのかまでは判断できませんでした。
ヨロイ竜とはどのような恐竜?
ヨロイ竜類は、体の表面に骨でできた板やとげを持つ植物食恐竜の仲間です。
その名のとおり、体をよろいで守っているような姿をしていました。
ヨロイ竜類には、尾の先に大きな骨の塊を持つことで知られるアンキロサウルス科と、肩の周辺に発達したとげを持つノドサウルス科などが含まれます。
今回の化石は、後者のノドサウルス科に分類されました。
ただし、見つかっているのは頭骨など一部の化石です。ニッポノペルタの全身の大きさや細かな姿が、今回の研究ですべて判明したわけではありません。
全身復元図の多くは、近縁な恐竜の骨格も参考にして描かれます。
CTスキャンで岩石の中の骨を立体化
研究チームは、化石をCTスキャンで撮影しました。
CTは、物体をさまざまな方向からX線で調べ、内部の構造を画像として再現する技術です。医療現場で体内を調べる装置と、基本的な考え方は共通しています。
今回はCT画像をもとに、岩石と骨をデータ上で分ける「デジタル・クリーニング」が行われました。
これにより、実際の岩石を大きく削ることなく、内部にある頭骨の形を三次元で観察できるようになりました。
研究チームがほかのヨロイ竜類と比較したところ、後頭部などに、既知の種類とは異なる特徴の組み合わせが見つかりました。
そこで、新しい属と新しい種の両方に当たる「新属新種」と判断されました。
生物の分類では、「属」は近い種をまとめるグループです。新属新種とは、既存の種だけでなく、既存の属にも当てはまらないと判断されたことを意味します。
名前の意味は「北海道で見つかった日本の盾」
新しい恐竜には、「ニッポノペルタ・エゾエンシス」という学名が付けられました。
「ニッポノペルタ」は「日本の盾」、「エゾエンシス」は「蝦夷、つまり北海道の」という意味です。
合わせると、「北海道で見つかった日本の盾」を表します。
ヨロイ竜類の新属新種が日本で命名されるのは、今回が初めてです。
日本産の恐竜が新属新種として命名された例としては14例目で、北海道産の恐竜が新属新種として命名された例としては3例目です。
北米やヨーロッパの恐竜に近い仲間
研究チームは、ニッポノペルタの骨の特徴をほかのヨロイ竜類と比較し、恐竜同士の進化上の関係を示す系統樹を作りました。
その結果、ニッポノペルタは、ほかのアジア産ノドサウルス類よりも、北米やヨーロッパで見つかっている種類に近い系統だと推定されました。
さらに、アジアで見つかったノドサウルス類は、系統樹の一か所だけに集まっていませんでした。
この結果から研究チームは、一つの系統がアジアだけで枝分かれしたのではなく、異なる系統のノドサウルス類が複数回にわたってアジアへ進出したと考えています。
ここでいう「大陸間移動」は、1頭の恐竜が海を越えたという意味ではありません。
長い地質時代の中で、複数の世代を重ねながら、恐竜の分布域が北米やヨーロッパ、アジアへ広がったことを指します。
海辺で暮らす性質が分布拡大に関係した?
ニッポノペルタの化石が見つかった日陰ノ沢層は、主に海の環境で堆積した地層です。
ただし、ニッポノペルタが海中で暮らす恐竜だったという意味ではありません。陸上や海岸付近で死んだ個体の一部が水で運ばれ、海の地層に残った可能性もあります。
研究チームが系統樹と化石の発見環境を使って祖先の生息地を推定したところ、ニッポノペルタに近いグループには、海岸や河口など海の影響を受ける場所に暮らす傾向が示されました。
研究チームは、このような海辺に近い環境を利用する性質が、地域を越えて分布を広げるうえで役立った可能性があると考えています。
もっとも、生息環境は化石や系統関係から復元されたものです。ニッポノペルタの行動を直接観察した証拠ではないため、今後さらに化石記録を増やして検証する必要があります。
約30年前の化石から新しい情報
今回の成果は、古くに発見された化石でも、新しい技術で調べ直すことで重要な情報を引き出せることを示しています。
ニッポノペルタの全身像や詳しい生態には、まだ分からない部分が残されています。
それでも、岩石の中に隠れていた頭骨を立体的に調べたことで、ヨロイ竜類としては日本初となる新属新種として命名されました。
約1億年前、現在の日本列島にあたる地域にどのような恐竜が暮らし、世界の恐竜とどのようにつながっていたのか。
ニッポノペルタは、日本の恐竜研究だけでなく、白亜紀の恐竜が大陸間へ分布を広げた歴史を考える新しい手掛かりになります。
